高口光子女史の講演を開いたことがあるだろうか。会場は最初、シーンとしている。こんなきわどい冗談に笑っていいものだろうか、と戸惑っているのだが、やがて苦笑が爆笑に変わる。彼女の「本音ワールド」に引きずり込まれるのだ。
あまりに辛らつな看護職への批判に、途中で怒って帰る人を私は何回か見たことがあるが、最近では、ターミナルケア、それもケアプランの中にそれを位置づけての実践報告
に、海千山千(と言っては失礼か)の婦長連中を泣かせるほどに“芸”が上達している。
その高口さんが本を出した。前著『いきいきザ老人ケア』 (医学書院)も、すごい衝撃だった。訓練室で老人が、障害や境遇など、どちらが不幸かを競い合うようすを描いた「不幸くらべ」に大笑いした。彼女はその後、病院のPT科長の職を捨て、介護の世界に入る。特養ホームの寮母長を経てデイサービスセンター長も経験する。
その畑違いの分野を見事に自分の領域にしてしまったのが今回の本である。題名とは違って、きわめてまっとうな施設の介護論である。特に、婦長、寮母長、主任といった中間管理職にとっては、これまでどこにもなかった共感のできる運営管理論になろう。
介護保険の開始に伴って、施設の運営は盤石のものになっ たかに見える。しかし施設介護の現場は逆に自信を喪失しつつあるように思える。「ユニットケア」なんていう流行に飛びつくこともその自信の無さの表れだろう。
「ユニットケア」にすることでいったいどんなケアをしたいのか、という肝心の中身が見えてこないのだ。個別ケア?それはユニットケアでなくてもできるんじゃないの。むしろ、人間関係の個別化は、無数の組み合わせの可能な非ユニットのほうが可能ではないのか。
家庭的ケア?「家庭的雰囲気を壊すから」と重い呆けを追い出すグループホームを見ていれば、「家庭的」がいかにギマン的か判りそうなものじゃないか。
施設スタッフがこれまで経験してきたことをこそ大切にし て、新たな介護管理論を創り出そうとする著者の姿勢はそんな流行を吹き飛ばす。デイやショートの運営についても語られており、施設はもちろん、地域のケアマネジヤーにも必読の書。
『ケアマネジャー』(中央法規出版)
2002・07 「ケアマネジャーの本棚」 より