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続々 号 外 版


BRICO 2002年3月号より

     
 
個室の強制にどう対応するか
 

 客人 「新型特養ホーム」の設計段階で、県の担当者の頭が固くて困っている。ユニットを厳格に分けろと言うし、個室も引き戸で開くのはダメで完全な個室にしろとか。

 三好 かつて痴呆性老人の施設を、老人が徘徊しやすいように回廊式にしろ、なんて強制してましたよね。今じゃ、誰もそんなものつくろうとしないでしょ。だって、痴呆性老人のニーズは自由に徘徊したいということじゃないですものね。ユニットも個室も、10年経ったら「なんであんなバカなことをしたんだ」と言われるようになるのは目に見えてますね。

 客人 三好さんの予想はよく当たるものなあ。かつて「MDSなんてすぐすたれる。誰がこんなものを現場に押しつけようとしたか覚えておこう」なんて書いてましたよね。そのとおりになった。

 三好 もうMDSなんて言っても何のことか誰も覚えていないんじゃないの(笑)。

 客人 でもその「全室個室」を押しつけられている側はどうすればいいんでしょうね。

 三好 個室というのは、近代的自我に対応しているんですよね。みんな近代的自我を確立しなきゃいけないっていうんで、子どもに個室を与えたでしょ。で、どうなったっかっていうと、反省が起こっているんですよ。子育てで失敗したことを、1回りも2回りも遅れて介護の世界でやろうとしているんです。

 老いは、近代的自我が崩壊していく世界です。 痴呆となると、自我が消えて、自然に回帰していく世界です。そんな人たちにまで、近代個人主義 というイデオロギーを押しつけようというのが「全室個室」です。

 人恋しくて夜中に個室から出てくる人、互いに添い寝をして落ち着ける人たちのために、そんなコーナーを予め用意しておくべきですね。 スタッフ室の近くに、畳でも置けるようなコーナーをね。また、何室かに1室、個室にしては広い部屋をつくっておくとかね。そこにベッド3台ぐらい入れて、痴呆性老人のニーズに応えるんです。広い理由は何とでもつけられるでしょう。

 客人 なんだか正規のケアに対して、ゲリラ戦みたいなケアですね(笑)

 三好 そうそう。それでも、近代主義者たちはザコ寝させてるなんて、老人の「人権を尊重していない」なんてケチをつけるだろうけど、現場で老人のニーズの多様性を身体で知っていない人たちは放っておけばいいんです。

 客人 たしかに個室がいい人もいるし、大部屋で落ち着く人もいる。フスマや障子で区切られているくらいがちょうどいい人もいますもん ね。

 三好 同じ人でも、個室がいい状態のときとみんなと一緒にいたいときが交互にくる人だっ てあるし…。

 客人 近代主義者って発想が画一的ですよね。

 三好 そう。そもそも近代というのが画一的なんです。「人権」なんていう抽象的レベルでしか人間を捉えないから、人間がみんな同じに見えてしまう。実際には、人間は多種雑多だし、若い人と老人はちがうんです。痴呆性老人はもっ とちがうのにね。

 客人 「1万人委員会」で活動している女性と議論したことがあるんですよ。彼女の実母は痴呆で特養ホームにいるんです。それで介護に興味をもったっていうんですけどね。当然、特養の全室個室化には賛成なんです。私が、現場のいろんな老人の話をして反論すると、最後には本音を言ったですね。

 『たしかに、母はぼけていて(母が)個室がいいなんて言った訳じゃない。しかし、特養に預けている私としては、大部屋の施設に入れてるより、個室に入っているほうがいい』って言うんです。

 つまり、老人のニーズではなくて、自分の側のニーズだということなんですよ。

 三好 特養ホームに入れていることへの罪悪感とか世間体のための個室なんですよ。特に、戦後の生まれで近代個人主義を信じて育った団塊の世代の自己満足だと思いますね。

 客人 だから「介護を知らない1万人委員会」 なんて現場から揶揄されるんですよ。

 三好 えっ、そう言われてるの?

 客人 そう。「高齢者介護から逃げたい女性の会」とかね。彼らの「全室個室化」の主張は間違っているだけじゃなくて、それを行政権力と結びついて現場に強制するのがもっとひどいと思うね。

 三好 介護現場に影響力をもっていないから、 権力と結びつくんだよね。行政のやるべきことは選択の幅を広げることですよ。何を選ぶかは、 介護保険料を払っている人たちが決めればいいんです。でも、この人たちは大衆をバカにしているから、自分たちが“正しいこと”を強制してやらなきゃと思っているんですよ。

 客人 家族主義を強制する古い権力と、近代個人主義を強制するちょっと新しい権力という構図ですね。

 三好 現場はどっちにも加担しないこと。幻想なんかもたないこと。それが大切。個室化に代表される近代化は、新たな問題のはじまりにすぎないのだから。

 客人 ユニットケアの強制については、また次号で語ってもらいましょう。





というわけで、次号の「介護夜汰話」は『ユニットの強制にどう対応するか』です。

乞うご期待!

 

 

 

   
   



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