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「給料分の仕事」とは (本文より抜粋)
今回は、介護の危機的状況の中で刊行されることになった。現場の人手不足は深刻だが、それは表層の問題で、その深層には、この社会が進歩や発達ばかりを追い求め、老いと死、それに関わる介護に価値はもちろん、意味を見出せなくなったことがある。もっとも時代は生きていることにさえ、とっくに意味を失っているかのようである。
医療や看護は”科学”をその根拠にしている。”客観的”な世界なのだ。だから医者の処方は客観的に正しくて、患者が嫌がったらどうするか、という場面設定がないのだ。
「嫌がっても何とかするのが看護師の仕事だろう」なんて言われて、看護師たちは心ならずご手足を抑制したのである。そのうちそれが使命だと思い込んだりもした。だってそう思わなければやっていけないではないか。
老人は嫌がることさえしなければ、どんどん元気になった。足音が近づくと怯えた表情になって、顔を近づけると手で払うように拒否していた老人は、病院で抑制されていて、人間と世界が信じられなくなっていたのだった。「問題行動」とされたものの多くは、老人たちのルサンチマンだったのだ。
何かいいことをしてあげなくてもいい。ただ老人をダメにすることさえしなければ、老人は元気になっていくのだ。まず、怯えが消え、安心し、表情が出始める。ついでコトバが出て、笑顔を見せるという順番に。
介護職がなすべきことは今でもこのことではないか。まず、老人が嫌がることをしない。 どうしたらいいかいっしょに考えることだ。たとえ、医師の指示だろうが、ケアプランで決まっていようが、本人が嫌がっているようなら、躊躇し、ためらって、他の方法はないかとみんなで考え、本人に意見を聞いてみることだ。
それが給料分の仕事だ。だって安い給料ときつい仕事で、特別なことや、やさしい心を要求されたって無理ではないか。それは給料と職員の数が1・5倍になってからやればいい。
振り返ってみると、「給料分の仕事」というのは大変なことだということがわかる。たと え、安月給とはいえ、世界の賃金レベルから言うと、それなりの金額なのだ。それくらいの知と技は手に入れたいと思う。
● 目次紹介
序章 介護職よ、給料分の仕事をしよう
介護職よ、給料分の仕事をしよう
第1章 老いに「近代」は似合わない
近代主義には困ったものだ
なんて短絡的なんだろう
〜筋トレで老化と闘うのだそうだ
なんて単純なんだろう
「認知症は病気」、よく言うよ。
「感情失禁」論
「脳トレ」やるほど呆ける、その根拠
第2章 異文化との出会い
老年期の消滅
〜ニューオリンズは他人事ではない
異文化としての老い
「生きたい」と「死にたくない」
〜インド・ムガルサライ駅前広場の夜
なぜインドか、なぜ「共同幻想論」か
『ユニット・個室』誤りの理由
第3章 本を読もう、仕事に活かそう
「禁制論」と介護現場
近代的因果論への静かな異議
転職をすすめる根拠
現場が生んだ介護の本の最高傑作
現実は厳しいからこそ本を読もう
介護現場のギャグの意味
看護師にも介護職にもおすすめの1冊
第4章 介護の世界に「事典」ができた
介護の世界に「事典」ができた
ミネルヴァの梟
「事典」をコミュニケーション・ツールに
ぬる問題
のらくろ
私物
昭和も遠くなりにけり
排泄最優先の原則
80過ぎたら生き仏
牧人権力
時間の構造化
母性
第5章 介護はどこへ向かうのか
マイナスをゼロに
〜幻想はもう捨てよう
現場から届いたコトバ
認知症につきあえる人とは
〜「心の闇をめぐって」
人の動きの生理学が根拠
存在論的武装解除
〜質問に答えて
終章 対談「ケアの時代に必要な心と方法論」
介護職よ!職場は辞めても仕事は辞めるな
大田仁史×三好春樹